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秋恋

『茜色』

その人はいつもアイスティーを飲んでいる。

レモンも、ミルクも入れないストレートティー。

傍らにはシナモンロールがあって

穏やかな瞳を少し下に向け、

本を読みながら、ゆっくりと時を過ごすのだ。

 

土曜日の昼下がり。

その人に会いに行くのが、私の楽しみだった。

店の一番奥にあるソファがその人の指定席。

私は大きなガラス窓に近い席を選び、

街ゆく人を眺めるふりをしながら、

その人の存在をずっと感じていた。

バカンスの予定も何もない夏の間、

私にとってその人のいる空間がオアシスだった。

 

やがて、陽射しが少しずつ激しさをそぎ落とし、

ゆるやかに季節が移っていく。

風の色が変わり、街がまとう色も変わっても

私は相変わらず、オアシスを求めた。

近づくこともせず、忘れてしまうこともせず。

同じ場所でただ、その人と同じ空気の中にいたいと

そう願っていた。

 

けれど、思いがけず変化はやってくる。

 

ある日、その人のテーブルの様子が変わった。

置かれているのはホットティー。

相変わらず、レモンもミルクもなかったけれど、

傍らには少し甘い香りのするミルクティーがあった。

穏やかな瞳はまっすぐに前を向き、

口元にはやさしい微笑みが浮かんでいた。

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