今日という日を迎えるまでの道のりをずっと、私を隣に従えながら…。
私は結婚式が行われる教会に行くかどうか、ギリギリまで迷っていた。いや、直前まで行くつもりはなかった。
秀一とナオが並んで愛を誓い合うところなんて、冷静に見ている自信はなかったから。私の心は、もうとっくに限界を超えていたから。
だから、今日は会社へ向かった。急ぎの仕事なんてなかったけれど、忙しくて…なんて言い訳でごまかしたくて。
「なんだ、進んで休日出勤とは珍しいな。晴れ晴れとした大安吉日に大雨でも降らせる気か、お前は」
そうとは知らず、微妙に気持ちを逆なでする発言をする似非ジロー・ラモな社長を無視してパソコンを立ち上げる。
メールをチェックしながら、さて、何の仕事で時間を潰そうかと考えていると、新野さんがチラリと私に視線をよこし、口の端をちょっとだけ上げる。
「ふぅーん、本日は勝負服ですか」
そのつぶやきにハッとする。
クライアントのところへ行くわけでもなく、大事なプレゼンがあるわけでもない、しかも休日の今日。私が常々、勝負服だといって憚らないスーツを着ている。そりゃあ、意味深だよね。私が新野さんの立場なら、盛大にそこにツッコむところだ。
基本、他人に興味がない新野さんですら、口にせずにはいられない事実。そう思い当たって、ふと手が止まる。
私…教会へ行くつもりだったの? あの二人を祝福するつもりだったの?
自分の考えに思わず自分で首を振る。
今の私には無理だ。幸せそうな二人を見るたびに傷を刻みつけてきたこの心は、最後のトドメを刺す場所なんてないほどボロボロなのだ。耐えられるはずがない。
だから、今日は行かない。行けない。行きたくない。なのにどうして、私はこのスーツを着ているのだろう。
途方に暮れたようにパソコンのモニターを見つめる私に、新野さんがチラリと視線をよこす。けれど、何も言わない。
いつもの新野さんなら、周囲の状況になど無関心を貫き、自分の作業に没頭するはずだ。それが、今日はどうにも勝手が違うらしい。なぜか私の様子を伺うようにしている。
いきなりガタン、と席を立つ音がして我に返る。
「ちょっと出てくるぞ。今日は戻るかどうかわからんから、お前らも適当に帰れよ」
そう言い残して、社長が出て行く。その時、新野さんと視線が合った。皮肉るような色をたたえた視線を私に向けている。
「あんたも、行くとこあるんじゃないの?」
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