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「私の知らない、私の事情」第18回

「もう、家に戻る必要はなさそうね」

 まだ少しどこか上の空で、私はゆるゆると頷いた。
 今日の予定はわかった。けれど、秀一に伝えたい言葉は、まだ見つからない。もし見つかったとしても、私にはもう、それを秀一に伝える術はない。
 そう思い至ると、ここにとどまっている理由はないと気づく。

 あちらの世界へ行くのって、どうすればいいんだろう。彼女にお願いすればいいのかな。
 そう思いながら、ふと彼女へ視線を向ける。

「行かなくていいの? あんなに急いで向かおうとしていたところへ。大切な用事だったんでしょ?」

 彼女の言葉に、溜息とも苦笑いともつかない吐息をこぼし、私は困ったように眉を寄せた。

「何を言えばいいのか、わからないの。伝えなくちゃいけないってことはわかるんだけど、言葉にできないの。それに…」

「それに?」

「私、ユーレイになっちゃったから、もう伝えることなんてできないし」

 すべてを諦めた私に、彼女はちょっと笑ってこう言った。

「方法はあるわ。誰かの身体を借りればいいのよ。前にも言ったでしょ?」

 簡単なことだ、とでも言いたげな彼女の言葉に、私は力なく首を振る。

「私のことが見えて、しかも、身体を貸してなんて無茶な話を聞いてくれる人なんて、簡単に見つかるはずないわ」

 あくまでも後ろ向きな私の言葉に、意外な方面から反論が飛ぶ。

「さっきまでの勢いはどうしたよ。うるせぇくらいジタバタしてただろ? 何とかしようってもっとジタバタしてみりゃいいじぇねぇか」

 あ、忘れてた。とてつもなく可愛い外見とべらんめぇ口調が恐ろしいほどミスマッチのマグカッププードル。
 私を睨みつけているらしいが、威圧感ゼロ。どころか、可愛さ絶賛増量中。何だこの生き物は…。

「行ってみれば? 何もできないかもしれないけれど、伝えたいって想いがあるなら、行くべきだと思うわ。ここに未練を残さないためにも」

 たとえ伝えられなくても行くべき? 笑って見守る勇気の出なかった二人の幸せを、見に行くべきなの?

「かーっ、じれってぇな。グズグズせずに行ってこい。何にしても死ぬより悪いことにはならねぇだろ?」

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「私の知らない、私の事情」第18回