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夢の中で

夢を見ていた。
私は荒れ果てた街の、
かつてスクランブル交差点だった場所に立っている。
ここが何処か、夢の中の私は知っていた。

ここは、私の街だ。
すべてが破壊され、死に絶えた街。
髪に、頬に、腕にまとわりついてくる風が、
死の香りを運んでくる。
それが、私の日常だ。

遠くに、ほんのかすかに車の音がしたような気がして、
思わず走り出しそうになる。
けれど、私は一歩も動かない。
それが空耳だと知っているから。
ありえないこととわかっているから。

ふいにこみあげた涙で胸が詰まり、
あえぐように息をする。
苦しい、と思った瞬間、目が覚めた。


柔らかなベッドの上に身を起こし、
私は、泣いていた。

そして始まる、ちょっと退屈で平凡な一日。
いつもの幸せな日常に戻ってきた私は、
夢の中の私を思い、また少し、涙を流す。


また、夢を見ていた。
私は、カフェで友だちとおしゃべりをし、
行きつけの雑貨屋に寄り道をし、
たくさんの人が行き交う夕暮れの街を、
楽しそうに笑いながら歩いていた。

この夢が、覚めなければいいのに。

そうつぶやいた瞬間、
廃墟に横たわる私の頬を
涙がひとすじ、つたって落ちた。
 


朗読/木村浩平