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9番目の夜

最初の夜。
彼女はひとり静かに、そこにいた。
誰かを待っている素振りもなく、
ひとりぼっちで佇んでいる風でもなく、
ただそこに、ふわりと澄んだ空気をまとって存在していた。

次の夜。
彼女はやはり、そこにいた。
誰にも汚されることのない、透明なバリアに守られ、
わずかな微笑みを口元にたたえている。
その真っ直ぐな瞳には、何が映っているのだろう。

そして、次の夜もその次の夜も、
僕は彼女の元へ通い続けた。
近づくことはできず、声をかけることもできず、
同じ空間にいる…ただそれだけだったけれど、
彼女がそこにいるだけで、僕はそれだけで幸せだった。

やがて、9番目の夜がやってきた。
いつもと同じ場所に、彼女はいた。
昨日と変わらぬ姿で、昨日と変わらぬ清々しさで。
けれど、何かが昨日とは違っていた。
そして唐突に、今夜が最後だと僕は悟る。
明日からは、どこを探しても彼女はいないと、
僕にはなぜかわかっていた。

彼女が微笑む。
9番目の夜を祝して。
木々が騒ぐ。
9番目の夜にはしゃいで。

そして僕は、ひとり取り残された。
彼女のいない、誰もいない、9番目の夜の闇の中に。



朗読/島田陵平