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囁き

やさしく甘い響きで、悪魔が囁く。
 
「こっちへおいで」
 
行ってはいけない。
理性が私にブレーキをかける。
しかし、私の心はすでにコントロールを失くしていた。
とろりと心をとろかすようなその声に
私は逆らうこともできず、抗うこともできない。
 
その声が奏でるたったひとつの言葉に、
私は容易に心を乱され、
その声が紡ぎ出すたったひとつの言葉で、
私はいとも簡単に傷つく。
 
操られ、翻弄され、
すでにその腕の中に堕ちた私をあざ笑うように
悪魔は囁き続ける。やさしく、甘く、密やかに。
 
「さあ、目を閉じて」
 
後戻りはできない。
本能が真っ赤なランプを灯す。
危険を知らせるアラームは甲高くなり続けている。
けれど、その声に囚われた私の身体は、
ゆらゆらと誘われるままに流されていくだけ。
 
悪魔に身を委ね、幸せを感じている私は
どこか狂い始めているのかもしれない。
囁きに、ゆっくりと身体を蝕まれて…。

朗読/碓倉さとみ、井せきただし