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お節介な男

えー、世の中には、お節介な男ってぇのがいるもんでして。
頼みもしない大きなお世話をちょいちょい焼いては、
ひとり満足してるんですから、
まったくもって迷惑なヤツでございます。
 
「なぁ、久しぶりに飲みにでも行かないか?
 ちょっといい感じの店、見つけたんだ」
 
そんな誘い文句をかけてきたのは、昔からよーく知った男。
世間様からは、「腐れ縁」などと呼ばれ、
当の本人たちも、まったくもってその通りと
気にも留めない間柄でありました。
 
さてさて、誘い文句に乗り、いそいそと出かけてみれば、
感じのいい店、とやらで待っていたのは、
よく知った男がひとりと、見知らぬ男がひとり。
あぁ、またしても謀(はか)られた。
 
今度は一体全体、どんな男を私に紹介しようというのだろう。
あれほど、いらぬお世話だと、
きっぱりはっきり言い渡したのは、わずか数日前だというのに、
ほんに懲りない男だねぇ。
 
こちらの妙に白々とした視線を受け流し、
場を盛り上げようと四苦八苦する姿は、滑稽なほど涙ぐましい。
だからと言って、絆されるわけにはいかない。
こちとらにも、譲れないものってぇのがあるんです。
 
わかっちゃいないのはお前さんの方だ、
と言いたいところをぐっと飲み込めば、
困ったような、呆れたような
いやいっそ、憐れむような視線を向けてくるんですから、
まったくもって、困ったもんでございます。
 
またしても空振りに終わったお節介の後、
チロリと上目遣いで視線をよこし、
この男、よりにもよって、こんなことをのたまった。
 
「俺はさぁ、お前に幸せになってほしいんだよ」
 
あぁまったく、有り難いお言葉に涙が出るってぇもんだ。
わかってないにもほどがある。
 
そもそも、私がお前さんの誘いを断らないのは、
たまたま時間が空いていたからでもなければ、
いつも暇を持て余してるからでもないってぇことが
他ならぬ、お前さんからの誘いだからってぇことが
どうしてこの男にはわからないかねぇ。
 
この際だから言わせてもらおう。
どんな男を紹介されたって、私の心はとうに決まってる。
気づいてないのはお前さんくらいなもんだよ。
ちったぁオンナ心ってぇもんを勉強しやがれ。
こちとら年季の入った片想いを決め込んでるんだ。
ちょっとやそっとで諦めるほどヤワじゃないから
覚悟しやがれ、こんちくしょー!
 
と、心の中でなら、
いくらでも威勢よく悪態をつけるものの、
お節介で愛しい男へ、
想いを打ち明けるどころか、
ほのめかすことすらできないなんて、
あぁまったく、情けないったらありゃしない。

朗読/空閑暉