トップ  > Night★Cap Story  > ハッピーエンドをキミに

ハッピーエンドをキミに

キミが笑う。
少し寂しそうに、すこし苦しそうに。
「物語の終わりは、ハッピーエンドがいい」と。
だから、ボクは願う。
降りしきる雪が、キミの心まで凍らせないようにと。
暖かなぬくもりが、キミのそばにありますようにと。
 
出逢いは春。
陽だまりの中で微笑むキミに、ボクは恋をした。
時が止まったみたいに、ただキミを見つめていたっけ。
夏はまだ片想い。
必死のアプローチも、まるでキミには通じなくて、
鈍感すぎるキミの攻略法はどこを探しても見つからない。
諦めかけた秋にようやく実った恋。
紅葉のように色づいていくふたりの心は、
冬の木枯らしの中でいっそう固く結ばれて。
それから幾度も、一緒に季節を見送った。
 
だから、こんな風に離れる日が来るなんて、
ボクは一度も想像したことがなかった。
キミとボクに、ハッピーエンド以外の結末があるなんて
知らなかった。知りたくはなかったよ。
 
それでもキミが、ハッピーエンドを望むなら、
ボクは祈るよ。
青い鳥が、素敵な恋をキミに運んでくるようにと。
ボクは願うよ。
萌える緑に誘われ、幸せがきらめくようにと。
 
もう一緒にはいられないけれど、
隣を歩くことはできないけれど、
ボクは誓うよ。
誰もが羨むハッピーエンドをキミに贈ろう。
ボクではない、別の誰かとキミの
終わらないハッピーエンドを。

朗読/山口龍海