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セルロイド

彼女は、泣かない女だ。
 
ついさっきまで恋人、と呼んでいた男が
唐突に別れを切り出しても、
その腕に、別の女を抱いていても、
彼女の頬に涙が伝うことはない。
だって、彼女は泣き方を知らないのだから。
 
彼女は、笑わない女だ。
 
新しい男が、呆れたように彼女を見つめる。
その瞳に映るのは、愛想のない女への嘲り。
退屈だという態度を隠しもしない。
けれど仕方のないこと。
だって、彼女は笑い方を知らないのだから。
 
彼女は、怒りもしない。
どんなに酷いことばを投げつけられても、
ただ、黙っているだけ。
彼女は、苦しみもしない。
どれほど多くの人が彼女を見捨て去っていっても、
ただ、立ち尽くしているだけ。
 
揺れもしない。躍りもしない。
痛みもしない。ときめきもしない。
できそこないの心を抱えた彼女は、
セルロイドの人形なのかもしれない。
 
彼女を、哀しい女だと誰もが言う。
けれど、哀しいとはどんな想いなのか。
彼女は、知らない。

朗読/空閑暉