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クリスマスの夜に

クリスマスにはケーキを食べるなんて、
一体いつ、誰が決めたんだろう。
誰もが当たり前のように従うルールに
僕はささやかな抵抗を試みる。
 
クリスマスにケーキは食べない。
甘いものが嫌いなわけじゃない。
むしろ、クリスマス以外なら、
喜んでケーキをパクつく甘党だ。
それでも
クリスマスにだけは、ケーキを食べない。
そう決めている。
 
 
子供の頃、僕のクリスマスにはケーキがあった。
豪華にデコレーションされた
有名パティスリーのブッシュ・ド・ノエル。
誰もが羨むそれを、
僕はうれしいと思ったことはなかった。
だって、それだけだから。
 
クリスマスの夜に、
僕と一緒にいるのはケーキだけ。
そこには、父さんも、母さんも、
友だちも…、誰も、いない。
僕が本当にほしいものは、何ひとつなかったから。
 
ひとりが寂しいなんて、いつもなら思わない。
なのに、ひとりきりのクリスマスが何より嫌いだ。
 
いつもより、部屋が広い。
いつもより、夜が静かで長い。
誰でもいいからぬくもりがほしくて、
心のない交わりを求めてしまうほどに、
僕は、凍えて、乾いていく。
 
だからねぇ、お願いだよ。
今夜だけは、そばにいて。

朗読/山口龍海