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春よ、来い

「春は、キライ」
 
黄色い絨毯を敷き詰めたような菜の花畑で、
キミは、そうつぶやいた。
はしゃいでは笑うみんなには
おそらく届かなかったであろうその言葉は
僕の心にだけ、なぜか舞い降りてきた。
それ以来、僕はキミから目が離せなくなったんだ。
 
あれから、長いような短いようなくねくね道を
僕はずっと、キミと一緒に歩いてきた。
その道の途中で知ったこと。
春がキミにもたらしたつらい別れ。
心に刺さった棘は、まだ抜けないまま?
キミは今も、春をキライなままだろうか。
 
冬よりも固く閉ざしたキミの心が溶けていればいい。
鮮やかな緑の葉が静かにそよいでいればいい。
いつか、あの日見た黄色い菜の花が
キミの心一面に咲き誇る日まで、
僕はずっと、キミと歩いて行こうと思う。

朗読/山口龍海