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月が見ている~Whisper not~

「あれ? メイク変えた?」

「な、なに急に。いつもと一緒だけど?」

「ふぅ~ん。何か、キレイになったなぁと思ってさ」

 

思わず頬が染まるような言葉を、

彼はサラリと言ってのける。

いつもの戯言だってわかってる。

本気じゃないと知っているのに、

どうして私の心は、

こんなにうれしそうに騒いでしまうのだろう。

 

「お前といると落ち着くな」

「気を遣わなくていいからでしょ?」

「まぁな。それに、楽しいしな、お前といると」

 

あぁ、彼はいつだってこうして

いとも簡単に私を喜ばせてしまう。

もう、これ以上は好きになれないのに。

私の気持ちなんて知り尽くしているくせに、

彼は私の心を揺さぶり続ける。

 

「いい加減、付き合うか?」

「え?」

「なんてな(笑)」

 

その気にさせてははぐらかす。

いつもと変わらぬ、お決まりのやり取り。

そうと知っていてもなお、

ドキリとする胸には呆れる他ない。

 

「本気でも、いいのに」

 

そう言ってみたいけど、

やっぱり言えないまま、曖昧に笑う私を

宵の月がじっと見ていた。