彼はひざまずいて愛を乞う。
手には大きなバラの花束。
ここで、頬を染めて恥ずかしげに笑って見せれば
きっと可愛いオンナなのだろう。
けれど、私はそっけない態度を返す。
戸惑っているわけではない。
どうにも退屈で、なんとも面倒くさくて。
思わず、
ため息をつきそうになるのを隠しもせず、
彼を見おろした。
それでも彼の表情が曇ることはない。
「愛するキミに」と
瞳に熱を宿しながら、美しく微笑むのだ。
誕生日には、贅沢すぎるひとときを。
クリスマスには、完璧なエスコートを。
なんでもない日にも、高価なプレゼントを。
彼の示す愛情は、どれもこれも私の心に響かない。
「愛するキミに」という言葉は、
いつでも私の心を素通りして消えていくだけ。
そんな私のことを、
世間は「冷たいオンナ」と言うけれど、
大きなお世話と言うしかない。
だって、私がほしいものを、
彼は決して私にくれない。
ハリボテの「真実の愛」なんてほしくない。
私が本当にほしいものを、もし彼がくれるなら、
その時はきっと…。
けれど今はまだ、私の心は渡さない。
STORY's
ことばやコラム
YouTube
ことばやの仕事
お問い合わせ