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「私の知らない、私の事情」第3回

「最期に、したいこと?」

「そうよ。そろそろ説明を始めていいかしら?」

私は黙ったままコクリとうなづいた。

「あなたは今から数日間、この世に留まることができるの。
 本来は七日間と決まっていたんだけど、最近は初七日の法要をお葬式と一緒に済ませてしまうでしょ。それでね、システムが変わってしまって。今はお葬式が終わるまでということになっているの。
 この世にいられる数日間で、あなたは“この世でし残したこと”をするのよ。たとえば、大切な人にサヨナラを言いに行ったりするの。
 何をするかはその人の自由。中には恨みを晴らしに行く、なんて人もいないわけではないけど、おすすめはしないわね。
 あなたが自分の死んだ原因を知りたいのなら、お葬式が終わるまでに何とかすることね」

 へぇー、そうなんだ。死んだ後ってそういう手順があるんだ。まあ、知らなくて当然か。死ぬの初めてなんだし。

「さて、一通り説明も終わったから、私はそろそろ帰るわね」

 彼女はどこへ帰るんだろう。私も“最期にしたいこと”が終わったら、彼女と同じ所へ行くのかな…
 なんてことをのんきに考えていたら、少女はすでに私から少し遠ざかった位置にいた。

「じゃあ、最期の日々を有意義にね。何か困ったことがあったら、助けに来るから」

 お役目終了!とばかりに少女は笑って手を振っている。

「あ、ちょっと待って。どうやってあなたを呼べばいいの? 困った時とか。スマホ繋がる?」

「さすがにスマホは使えないけど、あなたが困ってそうな時にはなんとな~く現われるから。ほら、今日みたいに。だから、心配しないで」

「ちょ、なんとな~くって、そんないい加減な…。ねぇ、待って、待ってってば!」

 さっきまで少女が立っていた、いや、浮かんでいたあたりに向かって叫んでみたものの、少女はすでに消えた後だった。思わず、呆然と立ち尽くす、いや浮き尽くした。
 途方に暮れる私に、もう姿の見えない少女の声だけが返ってきた。

「ひとつ言うのを忘れてたわ。誰かのところへ行きたい時は、その人を思い浮かべれば飛んでいけるからね。けっこう便利でしょ、ユーレイって」

 クスクスといたずらっぽい笑い声を残して、少女の気配は完全に消えた。
 ひとり取り残された私は、彼女が残した最後の言葉に打ちのめされていた。

 そうか、私、ユーレイになっちゃったんだ。
 

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「私の知らない、私の事情」第3回