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「私の知らない、私の事情」第15回

「あのさ、オレ…ナオちゃんに告白した」

 一瞬、息が止まる。そんな私にお構いなしに秀一の言葉が続いた。

「でさ、一応OKをもらって、付き合うことになった」

 そう言って、眩しいくらいの笑顔になった秀一の顔を、私はいったい、どんな顔をして見つめていたのだろう。いつものように上手く繕えた自信はなかった。
 けれど、私の絶望に気づかれる心配はない。おそらく秀一は、告白の場面を思い出していたはずで、ナオのはにかんだ笑顔を思い浮かべていたはずで、私のことなど眼中になかったから。

 

 いきなり頭を駆け巡った過去に黙り込んだ私を覗きこむように、少女が話しかける。

「思い出したのね」

 あぁ、彼女は何でもお見通しなのか。ため息混じりに苦い笑いをこぼすと、再び、彼女の艶やかな声が降ってくる。

「自分がどこへ行くつもりだったのか、わかったのね」

 みんな思い出した。今日は秀一とナオの結婚式だ。

 ナオは私の幼なじみだ。
 引っ込み思案なナオは、小さな頃から何かあるとすぐに私の後ろに隠れてしまうような女の子で、男なら誰でも、いや、私から見ても、守ってあげたくなるヒロインだった。
 実際、ナオは男の子たちからイジワルされることが多かった。今にして思えば、可愛い女の子の気を惹きたい幼い恋心ゆえのことなのだが、その頃の私は本気でナオをイジメから守っているつもりでいた。まるでナイト気取り。
 だって仕方がない。ナオは守られるべき女の子で、私は誰の庇護も必要としない強気キャラだったのだから。
 私がナオのナイトを卒業したのは、ナオが私立のお嬢様学校へ通うようになった中学から。それでも、幼なじみとしての付き合いは途切れることはなかった。

 もっとも長く一緒にいる幼なじみと、もっとも近くにいる男友だち。私を介して二人が知り合うのは、それもまた必然だったのだ。
 初めて逢ったあの日、二人はきっと「運命」という言葉の意味を知ったのだろう。互いの名前を知る前に、二人は恋に落ちた。
 それを私は、ただ黙って見ているしかなかった。気づかないふりもできないほど、それは鮮烈な出来事で、私の気持ちも知らず、私を恋のキューピッドにして、二人の恋は始まったのだ。
 そして、愛を育む一部始終を私に見せつけながら、二人は歩んできた。今日という日を迎えるまでの道のりをずっと、私を隣に従えながら…。

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「私の知らない、私の事情」第15回