トップ  > Night★Cap Story  > ハッピー・バースデー

ハッピー・バースデー

いつもと変わらない帰り道。
疲れた身体を引きずるようにダラダラと歩く。
昨日と同じ、代わり映えのしない一日が終わろうとしていた。
 
信号待ちの交差点で、ふと、空を見上げる。
何だかいつもより少しだけ、星が多い気がした。
サービス残業でみっちり働いた俺へのご褒美か。
 
そんなことを思いながら夜空を眺めていたら、
信号が蒼に変わったことに気づかずにいたらしい。
追い越しざま、若造がチラリとこちらに視線をよこしていく。
それでもまだ、ボーッと夜空を見上げていたオレを
現実に引き戻したのは、スマホのベルだった。
 
「あー、なんとか間に合ったぁ!
 誕生日、おめでとう!
 ま、おめでとうって歳でもないか」
 
いつもと変わらないあっけらか~んとした口調で
相変わらずのノンスットップなおしゃべりが始まった。
 
「ねぇ、そっちはもう家?
 私はまだ帰り道の途中なんだけど、
 やっぱり、今日が終わる前に連絡しなきゃって」
 
こちらに相槌を打つスキも与えず、
アイツは一気にしゃべり倒す。
まったく…、毎度毎度、賑やかなヤツだ。
 
「信号待ちでね、止まったから。ちょどいいやって。
 でね、何となく空を見上げたら、
 星がいつもよりちょっと多くて。
 なんかすご~くキレイで。
 これをプレゼントにして贈れたらいいのなぁって思ったんだ」
 
そうか。オレたち、おんなじ夜空を見上げているのか。
立っている場所は遠く離れているけど、
見ている空は、感じてる想いは、一緒なんだな。
 
「オレも今、空を見ていたとこ」
 
ようやく、おしゃべりの隙間に滑り込んだオレの言葉に
アイツはうれしそうに言った。
 
「私たち、おんなじ空を、見ているんだね」
 
いつもと代わり映えのしなかった一日の最後に、
夜空が、思いがけないプレゼントをくれた。

朗読/山口龍海&小池舞