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暗証番号

「4桁の暗証番号をご記入ください」
 
カードを作る時、必ず言われるこの台詞。
僕はためらいもなく、いつもの数字を書き込む。
ものぐさなうえに忘れっぽい僕には、
カードごとに暗証番号を変えるなどという芸当は難しい。
だから、暗証番号はいつも同じだ。
危機管理?
まあ、細かいことは気にしない、気にしない。
 
あ、でも、いつも使ってるこの4桁の数字、
もともとは何の番号だっけ?
 
人生で初めてカードを作ったのは、たしか大学時代。
何年前かは置いておくとして、
それからずっと、同じ数字を使いまわしているわけで、
番号の由来なんてとっくに忘却の彼方だ。
それでも、一度気になり出すと、
意地でも思い出さなきゃ気が済まない、なんて
我ながらなんて面倒くさいヤツなんだ。
 
それから、部屋中をひっくり返して大騒ぎ。
あっちの思い出と格闘したり、
こっちの記憶と戯れたりしているうちに、
あっ、と唐突に思い出した。
 
そうか、彼女の電話番号か。
 
そうつぶやいて、吹き出した。
いじらしいというか、純情というか。
ずいぶんと乙女チックなことをしたもんだと、
若かりし自分を笑い飛ばす。
ふと、初カノの天使のような笑顔が浮かび、
だいぶ激しく思い出補正がかかったそれに呆れながら、
何ともくすぐったい気持ちにさせられた。
 
せっかくだから今夜は、もう少し、
思い出たちと旧交を温めることにしようか。
ちょうど、とっておきのワインもあることだし。

朗読/一潤