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いつものふたり

ちょっと気になる同期の女子に誘われ、
久々のデート! と浮かれ気分で、
いそいそ帰り支度をしているオレを引き止めたのは、
胸ポケットから伝わる小さな振動。
 
受信したメッセージはたった一行
(ヒマ?)
 
こんなメッセージを見てしまったら、
連絡を取らないわけにいかない。
だって、アイツは絶対に落ち込んでいる。
たった3文字でそうだとわかる。
なにせ長い付き合いだからな。
 
途方にくれたアイツの顔が見えるようで、思わず
(これから飲むか!)
とメッセージを返した。
 
同期の女子との恋の蕾のそのまた蕾を
ドタキャンであっさり潰し、
オレはアイツの元へ駆けつける。
しょうがない、長い付き合いだからな。
 
いつもの待ち合わせ場所に佇んでいたアイツは
オレの顔を見ると、
一瞬、ホッとした顔で微笑んだ。
 
何があったのか、なんて聞かなくていい。
今夜はオレのありったけの元気をやるから。
くだらない話で、一緒にバカ笑いすればいい。
愚痴も悩みも忘れるくらい、とことん付きやってやる。
そういうもんだろ、長い付き合いっていうのは。
 
そろそろ始発電車が動き出す頃、
ようやくお開きになったふたりだけの宴会。
 
「これじゃあ、今日は仕事にならないなぁ」
なんてあくびをひとつしたオレに
 
「甘えてんな、しっかり仕事しろよ?」
そう言って笑ったアイツ。
強気で生意気ないつものアイツが
オレの目の前であくびを噛み殺していた。
 
目を見合わせて、また、ふたりで笑った。

朗読/空閑暉