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聞き屋

慌ただしい一日の終わり。
つかの間、おだやかに時間が流れる夜更け。
ベッドへ向かおうとした僕をスマホが呼び止めた。
映し出されたナンバーを見て、すぐに彼女だとわかる。
今日のご機嫌はどうだろうか。
 
挨拶もなく、話しはじめた彼女の声は、
お世辞にも明るいとは言えない。
あぁ、今夜も長電話になりそうだ。
 
僕は聞き屋。
人の悩みやグチを聞くのが仕事だ。
解決策なんて示さない。
アドバイスをすることもない。
だって、僕はカウンセラーなどではなく、
あくまでも、聞くだけ。
それでも商売が成り立つんだから、
世の中っていうのは不思議なものだ。
 
今夜、電話をかけてきた彼女も常連客のひとり。
彼の態度が冷たいからと、浮気を疑っているらしい。
彼の行動すべてを悪い方へ、悪い方へ
と解釈してしまう彼女の話を僕はじっと聞いている。
心の中もモヤモヤを、すべて吐き出してしまうまで。
僕は、彼女の話を聞き続ける。
どんなに長くても、たとえ朝が来ようとも、
彼女の話にとことん付き合う。
だってそれが、僕の仕事なんだから。
 
キミも話がしたくなったら、いつでも連絡しておいで。
気が済むまで、ずっと
キミの話を聞いてあげるから。

朗読/蒔苗勇亮