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バレンタインが来る前に

「バレンタインなんてキライだ」
とキミは言う。
すべての女性が恋をしている
と決めつけるなんて、冗談じゃないと。
そのことばに、僕は密かにがっかりする。
 
甘い香りが漂う街に
うんざりするキミを置いてきぼりにして
誰も彼もが、瞳に恋を灯らせてお祭り騒ぎ。
まるでインフルエンザのように
あちこちに恋のウィルスを撒き散らしている。
 
知ったことか、とヒールを響かせるキミ。
けれど、心の奥で少しだけ期待してしまう。
この熱に、キミも煽られてくれないかな、と。
そして、つい夢見てしまう。
キミからのとろけるような誘惑を。
 
いっそ、僕から仕掛けてみようか。
ねぇ、手加減はできないよ。覚悟はいいかい?

朗読/木下章嗣