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となりの芝生

周囲の誰もが、僕を評してこう言う。「きまじめな人」と。
それが褒め言葉でないのはわかっている。
つまりは、真面目であること以外に利点のない、
面白みのない人間だと言うことだ。
 
けれど、小さい頃から積み重ねてきた性格を、
そう簡単に変えられるはずもない。
そんな器用な真似ができるくらいなら、
こうやって愚痴ったりもしてないだろうし。
真面目なことが悩みなんて、
本当にバカバカしいと自分でも思う。
 
こんな僕だから、これまでモテた試しがない。
だって、女の子は誰でも、楽しい男が好きなんだから。
軽い口調で笑わせてくれる、たとえば…営業部の彼みたいな男。
僕が女だとしても、きっと僕ではなく彼を選ぶだろう。
冗談のひとつも言えない男と一緒にいるなんて、
退屈極まりない…でしょ?
 
 
俺って、お調子モノ。周囲の評価もそうだし、自分でもそう思う。
でも、オモシロイ男ってウケはいいんだよな。
ま、それ以上でも、それ以下でもないんだけど。
 
合コンには欠かせないキャラ、
とか言われても、素直に喜べないな。
だって、しょせんにぎやかし要員って言うか、盛り上げ役だし。
オモシロイけど、ただそれだけ。
お友だちとしては最高だけど、
って言われてニッコリ微笑まれて、
でもねぇって言葉を濁して去っていく。
そのくせ、顔にはしっかり「物足りない」って
書いてあるんだから嫌になる。
 
結局、男は金持ってないと相手にされないんだよなぁ。
経済力ってヤツ?
そうそう、わが社のエリートくんみたいにさ。
ついでに顔もスタイルも、お家柄も極上で、
文句のつけようがないなんて、不公平にも程がある。
なんでも持ってる男に弱いんだよな、女ってさ。
 
 
女の子を本気で口説いたのは、初めてだったんだ。
これまで自分からアプローチする必要なんてなかったし。
だから、まさか断られるなんて…今でも信じられない。
 
会社では超有望株で、資産家の息子。
見た目だってそう悪くない。
こんな好条件な男、そう滅多にいないと思う。
自分で言うのも何だけど。
けれど、彼女の断りの言葉はこうだった。
「誠実な人が好きなの」
 
女の子にモテるのが、気に入らない?
誰にでもやさしいのが、気に食わない?
でも、モテない男なんて、相手にしないくせに。
冷たくあしらえば、文句を言うくせに。
まったく身勝手にも程がある。
それに、誠実なんて、真面目なだけが取り柄の男のことだろう?
ほら、総務部のヤツとか。あんなので本当にいいのか?
 
 
「冗談のひとつくらい、言ってみたいけど、僕にはやっぱり無理で」
 
「経済力とやらを手に入れたいけど、そう簡単にいくわけねぇし」
 
「誠意なんて目に見えないもの、どうやって示せばいいんだろうね」
 
あぁ、アイツがうらやましい!

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