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月見ル君想フ 第3話「秘密~乃々~」

 乃々と過ごそう…って、冗談交じりに本音を漏らしてみても、きょうちゃんは私の気持ちに気づくことはない。言えない想いを抱えているのは、何もきょうちゃんだけじゃないんだよ。

 私だって、相手に言えない、誰にも言えない恋をしている。

 ずっと一緒にいられる親友ってポジションを手に入れた。うれしい、でも、苦しい。でもやっぱり、そばにいたい。そんな想いは、誰にも知られちゃいけない。

 きょうちゃんと初めて逢った日は、今でも私の宝物だ。あれは、高校の入学式。

 新入生代表として壇上で挨拶をするきょうちゃんは、子どもの頃に見た絵本の王子様に似ていた。スラリと高い背、しなやかな身のこなし、やさしげな微笑み、そして、よく通る耳に心地いい声が、私の胸を揺さぶった。

 私はあの日、きょうちゃんに恋をした。だけど…きょうちゃんの瞳を独占する男が、いた。

 

「乃々、遅れてごめん」

「走ってこなくてもよかったのに。ほら、汗すごいよ」

「だって、乃々を一人で待たせてたら、あっという間に男の子に囲まれちゃうじゃない」

「きょうちゃんが、乃々をナンパ男から守ってくれるの?」

「乃々の可愛さは罪深いからねぇ」

 いきなり、私ときょうちゃんの会話に割って入った声。それが、アイツだった。

「鏡花?」

「え?」

「やっぱり、鏡花だ」

「あれ、良夜? 何してるの、こんなところで」

「それは、俺のセリフだ。お前こそ、何やってんだよ」

「私は友だちと…」

「きょうちゃん? 誰…その人」

「あぁ、ごめんごめん。これ、良夜。私の幼馴染」

「おい、鏡花。これってことはないだろう?」

「あら、良夜の扱いなんて、これ、で十分でしょ?」

「ったく、失礼なやつだな。で、そちらは鏡花の友だち?」

「あの…」

「何よ、良夜。紹介してほしいの?」

「鏡花の友だちなら、挨拶くらいしておかないとな」

「えー、可愛い乃々が減るからイヤ」

「何だよ、減るって。減るわけないだろ。バカか」

「バカって言うやつがバカなんです~」

「きょうちゃん…その人と、仲がいいんだね」

「あぁ、腐れ縁? 生まれたときから一緒だからねー」

「姉弟みたいなもんだからな」

「姉弟…ねぇ」

「イヤなのか?」

「べ、別に、イヤじゃ、ないけど…」

 すぐにピンときた。きょうちゃんはこの男が好きなんだって。

 ほんの少しだけ、きょうちゃんの声がいつもより高い。落ち着いた口調が崩れてる。何より、きょうちゃんの瞳には、さっきからずっと、この男しか映っていない。

 さっきまで私を映していた瞳なのに。あっさりと追い出されてしまった。

 どうしよう。いつものように、この男を誘惑してしまおうか。きょうちゃんから離れていくように。私よりも、きょうちゃんとの距離が近いこの男を、そのポジションから引きずり下ろすために。

 初めて会ったあの日から、気に入らなかった。

 アイツが、アイツだけがきょうちゃんの特別だって、わかっていたから…。