トップ  > 週イチ連載小説  > 月見ル君想フ~another~第1話「縁日の夜に~鏡花」

月見ル君想フ~another~第1話「縁日の夜に~鏡花」

「きょうちゃん、早く。こっち、こっち」

「乃々、ちょっと待ってよ」

「この匂い~、もう我慢できないっ!」

「まったく、食いしん坊だなぁ、乃々は。そういうところも可愛いから、ほんと、罪深いわ」

「まずは、たこ焼きからだよね」

「大阪焼きも捨てがたいなぁ」

「たしかに!」

「どっちも粉モンだろ? たいして変わらなくないか?」

「はぁぁ…良夜くんってばわかってないなぁ」

「これだから、素人は」

「素人ってなんだよ。粉モンにプロも素人もあるか!」

「しょうがないよ、きょうちゃん。だって、良夜くんだもん」

「そっか。良夜だもんね、仕方ないか」

「何だよ、人を残念な男みたいに」

「え、違うの?」

「違わないと思うよ」

「お前らなぁ…」

 

 今夜は、乃々と私、おまけに良夜も一緒に縁日に繰り出した。

 子どもに戻った気分で遊ぼう、と乃々に誘われ、元々は、乃々ふたりで来るはずだった。そこに良夜が飛び入り参加することになったのは、出掛けに玄関先でばったり会ったからだ。

 良夜とは家が隣同士なので、ばったり…というのは珍しくない。けれど、私が友だちと出かける予定に便乗してくるなんて。そんなことはめったに、いや、今までなかった。

 一緒に出かける相手が乃々だったから、なのだろうか。

 なにせ乃々は可愛い。彼女とお近づきになりたい男は、昔から引きも切らない。つまり、良夜も乃々と仲良くなりたい…のかもしれない。

 幼馴染である彼に長年の片想いをこじらせている身としては、少々複雑だ。でも、心のどこかで仕方ないと思う自分がいる。結局、いつだって乃々にはかなわないのだ。