心の真ん中に居座って、いつまでも出ていってくれない。
何度追い出しても、戻ってきてしまうたちの悪い人。
あなたじゃない人に恋をする。それがささやかな私の願い。
夢の中なら素直に言えるのに。照れずにまっすぐに心の内を。
いざ、キミを目の前にするとことばが出てこない。情けない。
そして男は、今夜も星に願う。夢で逢えますように、と。
自分の指先すら見えないほど、深く濃い闇の中、
光を求めてさまよい歩いている。もう随分と前から。
出口はあるのだろうか。僕は…存在しているのだろうか。
ちょっと小首をかしげてみれば、頭をなでてくれる。
こらえきれずに涙をこぼしてみれば、そっと抱きしめてくれる。
とてもやさしくて、呆れるほどチョロい。私のあの人は。
「ごめん」と言ったきり、彼は俯いて黙り込んだ。
彼女も何も言わず、彼をじっと見つめている。
ありふれた別れに観客はいない。ただ動かない2人がいるだけ。
ずっと一人でいい。そう思って歩いてきた。
これからもそうして歩いていくつもりだった。
でも今は、隣を歩く人がいる。それが、幸せと知った。
好きなものの順位は、くるくる変わる。
小説も映画もお菓子も、新しいものに目移りしがち。
でも、1位だけは変わらない。何だかわかる?
森の奥には何があるのか。どうしても知りたくなった。
「行ってはいけない」の言葉に耳を貸さず、
たどり着いた古い城。そこにいたのは…。
「またね」と言って違う道を歩き出したふたり。
次の約束はできないけれど、いつかきっとまた。
歩いていく道の先が交わることを信じて。
いつかキミと見た風景に、ひとり佇んでいる。
記憶の中と何ひとつ変わらない。隣にキミがいない以外は。
キミが想い出にかわるまで、ボクの旅は続く。
休日出勤だからと、今日のデートはキャンセル。
なのに、あなたが知らない誰かと笑い合う姿を見つけてしまった。
なるほどね。ならば、嘘つきに贈る「サヨナラ」の準備を始めようか。
桜のつぼみがほころび始め、風も春色に染まる頃、
冬の女神はひっそりと塔を出て、白の国へと帰っていく。
春の訪れを喜ぶ人々は気づかない。その凛とした美しさに。
家具も想い出もすべて運び出し、空っぽになった部屋。
あんなに狭いと文句を言っていたのに、今は妙に広く思えた。
新しい部屋でキミではない人と、僕はこれから暮らしていく。
コツコツコツと後ろで響く靴音。つかず離れず。
走り出すのも、立ち止まるのも不正解な気がした。
規則正しく歩き続ける夜道は、どこまで…?
雫がこぼれ落ちないようにと夜空を見上げれば、
まあるく満ちた月が、じわりとにじんで揺れた。
キミも同じ月を見ているだろうか。僕の知らない人とふたりで。
夢への近道があるとしたら、キミはどうする?
ズルいと罪悪感を覚えるかい? ラッキーだと喜ぶかい?
神様は言う。どっちだっていいのさ。決めるのはキミなんだから。
何も感じない。喜びも悲しみも、痛みさえも。
何も見えない。目の前にあるはずのあなたの顔すら。
最後に残ったのはこの想いだけ。それもやがてが消えていく。
いつもキミのそばにいるよ。うれしいときはボクに話して。
泣きたいときはボクをぎゅーっと抱きしめてよ。
何もできないボクだけど、いつまでも、キミのそばにいるよ。
忘れてしまいたい。あなたとのすべてを。
でも、忘れたくない。ふたりで過ごした日々を。
想い出を両手いっぱいに抱えたまま、途方に暮れる。
「キレイだね」「美味しいね」「楽しいね」
そう言い合える人がいることが幸せだったなんて、
そんな些細なことが幸せだなんて、彼女は知らなかった。
花は、咲けば散る運命にある。だからこそ、美しく咲き誇るのだ。
そんな話をしてくれた人は、もう隣にはいないけれど、
せめて、散る花のように美しく咲いていたい、と彼女は笑った。
いつ途切れてもおかしくない細い細い糸。
ふたりを繋ぐには頼りなくて、危うくて。
それでも、離せない。だから、離さない。
男がいた。暗闇の中にポツリと立っていた。
声をかけようと思うが、なぜか音にならない。
ジワリと何かがこみ上げ、ハッと見れば、男がニヤリと笑った。
甘い言葉になんて騙されない!
やさしい態度に絆されたりしない!
好きになんて、絶対ならない…んだから!
「どこへ行くの?」そう聞かれたけれど、自分にもわからない。
いつからなのか、どこからなのか。いつまでなのか、どこまでなのか。
彷徨える男は、ただ前に進むだけ。彼の行き先を誰も知らない。
ある日、猫がやってきた。まるで「ただいま」とでも言うように。
そして、そのまま我が家に居着いてしまった。「当然だろ?」という顔で。
ねぇ、もしかしてキミなの? 応えるように猫が「にゃおん」と鳴いた。
泣かない、と約束した。だから、空を見上げる。
「あぁ、キレイだな」と、思わずつぶやく。
涙の代わりにこぼれた言葉は、少しだけ心を明るくしてくれた。
どんなに表情をつくろっても、心だけは正直で。
逢うたびにじくじくと傷んで、何度もカサブタになって、
また剥がれて…。それでも彼女は今日も笑顔だった。
キミは魔法使い。だれも知らないけど、ボクは知っている。
だってキミは、笑顔ひとつでボクを幸せにできるんだから。
キミは魔法使い。ボクだけの魔法使い。
この気持ちは、箱に入れて、そっとしまっておこう。
ふいに開いてしまわぬように、幾重にも幾重にもリボンをかけて。
いつか想い出にかわる、その日まで。
名も知らぬ真っ赤な花が咲いていた。
まるで君を隠すように。守るように。
そこから出られない君は、ただ静かに笑うだけ。
心に刺さったトゲは、どうやっても抜けなかった。
ちくちくと痛みを与え続けて、彼女に存在を主張する。
時が過ぎれば、それすら感じなくなるだろうが。
「あなたは誰?」とキミは不思議そうに首を傾げる。
忘れてしまったのかい? なんてキミは残酷なんだろう。
あんなに「好き」と言ってくれたのに…夢の中で。
ひとりは気楽でいい、と彼は思った。
誰にも邪魔されない時間は心地よく、幸せすら感じていた。
だから、自分が泣いていることに彼は気づいていない。
毎日顔を合わせているのに、肝心なことに気づかない。
意地を張って、空回りして、もぉ、焦れったい。
そろそろ自覚したら? 恋の女神がそっぽをむく前に。
好きな人の視線の先に誰がいるか、なんてすぐにわかる。
だっていつも見ているから。なんでもわかってしまうのだ。
けれど彼女は、自分を見つめる視線には、まだ気づかない。
今日もいつもの道で、気になるあの娘とすれ違う。
声をかけたいな。名前を知りたいな。仲良く、なりたいな。
だから「ワンっ!」と吠えてみたら、ご主人さまに怒られた。
彼女は何度目かの恋をした。楽しくて苦しい恋だった。
それを失くしたとき、もう二度と恋はできないと思った。
けれど、彼女はまた恋をする。それは、明日かもしれない。
「ありがとう」と、少しはにかんでキミが言う。
その笑顔のためなら、ボクはスーパーマンにだってなれる。
だけどね、キミがいなくちゃ何もできない意気地なしなのさ。
一緒にいることが、いつの間にかあたりまえになっていた。
だから、安心していた。油断していた。いや、思い上がっていた。
永遠に続くものなんてないって、知っていたはずなのに…。
ちょっと憂鬱な月曜の朝。それが、あの日から変わった。
駅のホームで見つけたキミのこと、まだ何も知らないけれど、
ひとつだけ知っている。その横顔がボクを元気にしてくれるってこと。
昔からおしゃべりは苦手だった。
言えずに飲み込んだ言葉は、この胸にどんどん溜まっていく。
今日こそは、たった2文字にありったけの想いを込めて…。
「ごめん」なんて謝らないでほしかった。
だってそれは、私のためじゃなくて、彼女のため。
ふたりの未来を守るためだって、知っているから。
ある朝起きると、ボクは猫になっていた。
けれど、キミがいて、ボクを膝の上に乗せてやさしくなでてくれる。
こんな暮らしも悪くないな。ゴロゴロと喉を鳴らしながらボクは思った。
「遅くなってごめん」と彼は言う。後悔をにじませながら。
彼をずっと待っていたはずの彼女は何も答えない。
だってもう、彼の言葉は彼女には届かないのだから。
夢の中で私があなたに言う。「ありがとう」と。
あなたは少し困ったように笑って「サヨナラ」と言った。
すべては夢の中の出来事…現実はもっと、残酷だ。
「ただいま」の言葉が明かりのない部屋に吸い込まれていく。
疲れた身体を引きずるようにして力なく電気をつける。
リビングに今も残るキミの余韻。それが僅かな慰めだ。
ボクのお母さんは忙しい。だから、ボクをかまってくれない。
話しかけても無視するし、抱きしめてもくれない。寂しい。
そんな小さなつぶやきは届かず、その姿を見ることもできない。
長い長い上り坂を、男は淡々と登っていく。
なぜか、も考えず。どこへ、とも知らず。ただ登っていく。
たどり着く先に、きっとあの笑顔が待っていると信じて。
彼は、今日も変わらず交差点を渡る。
彼女は、今日初めてこの交差点を渡った。
ふたりの未来は、まだ誰も知らない。
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