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「私の知らない、私の事情」第25回(最終回)

 私は心から湧き出てきた言葉を必死になって紡いでいく。

「今までずっと、ありがとう。秀一の心に居場所をくれて、ありがとう。たくさんの楽しい時間を、ありがとう」

 ボロボロと涙を零しながら、秋生の身体であることも忘れ、私は秀一に伝え続ける。

「だから、だから…幸せになって。ずっと、見守ってるから。幸せになってね」

 涙でぐしゃぐしゃの顔で、私は懸命に笑顔を作った。その様子を唖然として見つめていた秀一が、はっとしたようにつぶやく。

「果南?」

 その言葉に、ドキリと胸が鳴る。
 気づいてくれたのだろうか。秋生の身体の中にいる私の魂に。届いたのだろうか。私の、茅島果南の言葉が。

 秀一は、フルフルっと頭を左右に振ると、もう一度、目の前にいる秋生の姿をした私を見つめる。

「何だろうな。秋生のはずなのに、まるで、目の前に果南がいるみたいだ。さっきの言葉も全部、果南から言われた気がしてるよ。まったく、どうかしてるな。緊張しすぎて幻覚でも見たかな」

 最後、冗談めかして言った秀一だったが、果南の気配を感じ取ってくれたようだった。
 いや、幻と思われていてもいい。私はちゃんと伝えた。自分の気持を、一番大切な人に。きちんと伝えることができた。だからもう、それでいい。

 そう思った瞬間、私の身体は、スルッと秋生の身体から離れた。しかし、すっかり馴染んだふわりとした浮遊感はなく、私の身体は上昇し始めていた。
 空へと向かっていく感覚に、私は思わず納得する。

 そうか、いよいよ私、あちらの世界へ行くんだ。

 不思議と恐怖はなかった。スッキリとした晴れ晴れとした気分で、私は空へ昇っていく。

「果南っ!」

 秋生の声が聞こえた気がした。けれど、それはもう遥か下の方で、秋生の姿も、大好きな秀一も、私からは見えなくなっていた。

 

 空へと向かっていた私の身体は、少しずつ薄くなり、キラキラと光る粒となっていく。
 消えていく自分を実感しながら、もう見えない秀一に、私は最期の言葉を贈る。

「好きだよ、秀一。大好きだよ」

 ずっと言えなかった、やっぱり届かなかった言葉は、私と一緒にキラキラとした光の粒になって地上に降り注ぐ。
 せめて一粒でも、秀一の髪に舞い降りればいい。そのくらいは許してほしいと思いながら、私は静かにこの世界から消えた。

(終)

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「私の知らない、私の事情」第25回