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「私の知らない、私の事情」第24回


「オレも果南にも、そういう感情はないから。男だからとか、女だからとか、そういうのって考えたことないよ」

 わかっていたけれど、こうも真正面からきっぱりと言い切られるとさすがにキツイ。そうだよね、私は一度だって、秀一にとって女であったことなんてなかったんだ。

「そっか、あくまでも仲の良い友だちなんだね」

「友だちか…うーん、それもちょっと違うかな。オレにとって、果南は果南だから」

 秋生の姿をした私が、不思議そうな顔で首をかしげると、秀一はちょっと照れくさそうに笑って続けた。

「たとえば恋人ならさ、別れたとしてもまた別の誰かがそのポジションに収まることがあると思うんだ。たぶん夫婦も、ね。まぁ、今日みたいな日にオレの立場でこんなこと言うのは不謹慎にも程があるけどな」

 イタズラがバレた子供みたいな顔で笑う秀一を、私はじっと見つめる。そう、この顔も好きだった。

「一生変わらない絆なんて、ないと思ってた。少なくとも果南と逢うまでは」

 なぜか秀一は、秋生に言葉を尽くして、私との関係を話し続ける。私自身も聞いたことがない私への想いに、私はただ、唖然として聞き入るしかなかった。

 どのくらい続いただろう。秀一は私との関係をこんな言葉で締めくくった。

「果南は誰よりも近くにいて、オレの全部を理解してて、どんなことがあっても味方でいてくれる。たぶん、この先ずっと、果南みたいな存在には巡り合えないと思う。果南の代わりはいないんだ」

 私の心が温かな何かで満たされていく。
 秀一と恋がしたかった。でも、できなかった。それを悲しいと、苦しいと思ってきたけれど、秀一の中で、私はかけがえのない存在になっていた。いつの間にか、私も知らないうちに。それがすごくうれしくて、ほんのちょっぴりの切なくて、気がつけば私は、秀一の手を両手で握りしめていた。

 「秀一…あ、あの、ありがとう」

 戸惑っている秀一などお構いなしに、私は心から湧き出てきた言葉を必死になって紡いでいく。

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「私の知らない、私の事情」第24回