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ホロリ酔い

つまづく、なんて思いもしない僅かな舗道の段差に
ぐらりとよろけ、派手にすっ転んだ。
カッコわりぃ。
すばやく立ち上がって周囲を見回し、
誰にも見られていないことを確認しつつ、そそくさと立ち去る。
普通ならまぁ、そうするところだ。
でも、今は誰も見ちゃいない。
だからオレは、そのまま歩道にごろりと寝転がってみた。

初めて参加した合コンは、悪友の企みだった。
「外見も性格も問題ないのに壊滅的にモテないやつ」
であるオレを哀れんだから、らしい。

恋愛にへっぴり腰な残念男なのがバレバレだったのか、
はたまた、壊滅的にモテないオーラ全開だったのか、
オレに話しかけてくる女の子はいなかった。
けれど唯一、オレの隣りに座った彼女は
にっこりと笑顔を向けてくれた。
ちょっと甘えた話し方が、最初はなんだかこそばゆくて
少し居心地が悪い気がした。
それがだんだん、彼女のペースにはまっていき、
気がつけば、オレはすっかりドキドキの中にいた。

そんなオレに、悪友がチラチラと視線をよこす。
てっきり、恋愛ビギナーなオレに
作戦でも授けてくれるのだろうと期待してみれば、
アイツはちょっと渋い顔をして、こっそり耳打ちをしてくる。

「あの子、お前じゃ手に負えねーぞ」

どうやら彼女は、事前リサーチばっちりで、
最初からオレに狙いを定めていたらしい。
外見◯、評判◯、将来性◯、な~んて値踏みをしながら。
おそらく備考欄には
「モテないので落としやすし」とでも書いてあったのだろう。

脱力感と酔いを抱えたひとりの帰り道。
ふらつく足元には、ほんの数ミリの段差で十分だった。
つまづいて、すっ転んで、
そのまま寝転がったら、ふいに笑えてきた。
見上げた空は星もろくに見えず、愛想のない黒一色。

「あのまま、騙されてみてもよかったんだけどな」

そんな、モテない男の強がりを、
空は見て見ぬふりをしてくれる。
 


朗読/木村浩平
ストーリー/いとうかよこ