ことばや


「出張ことばや」、始めました!
いとうかよこ原作の脚本をプロの声優たちが朗読する「出張ことばや」。
15分ほどの短編から60分ほどの長編まで、

時間や場所などに応じて、さまざまなストーリーをご用意。
皆様の企画に沿った朗読お届けします。
図書館や学校での朗読会、イベントのゲストとして、など
いつでも、どこへでも、出かけてまいります。
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すべて昔のこと

昼間のスコールのような雨が
街の澱みを洗い流してくれたのだろう。
いつもより星が多く瞬いている今夜の空。
それを、見上げることのない私は、
めずらしい都会の星空に気づかない。

もっとも、気づいたところで意味はない。
いつの頃からか、この心は、
トクリとも動かなくなっているのだから。

そして今夜も、私はそっと目を閉じる。

一瞬の笑顔で、呆れるほどときめいたこと。
たったひとことで、全身が甘く痺れたこと。
その人を想うだけで、胸がきゅんと鳴いたこと。

たしかに私は、恋をしていた。
けれど、みんな、みんな、はるか昔の出来事。
たしかにこの胸に、刻まれた記憶たち。
けれど、今はもう、夢よりも遠い出来事。

私は、明けない夜を悲しむことも、
暗闇を歩き続ける寂しさを嘆くこともしない。
すべてに絶望することすらできないままに、
時折、昔を思い出している。
静かに凪いだまま、
揺れることのない心を抱いたままで。
 


朗読/山口龍海
ストーリー/いとうかよこ
at 2018/07/04 21:00:00