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セオリー

恋愛ドラマはいつだって、
反目しあう彼女と彼が、最後は恋人同士になる。
それがいわゆる、セオリーってこと。

ところが現実は、そう簡単でもなければ、甘くもない。
こちらを先輩とも思わぬ反抗的な態度。
明らかに他の男性に対するのとは違うそっけなさ。
それはもう、照れかくしとかいうレベルにはなく、
どこからどう見ても
「キライ」というサイン、としか思えない。

それに対し、こちらはといえば、
彼女のサインをなぞり返すことしかできない。
自分を嫌っている相手に愛想よくしっぽを振るほど
オレは大人でもなければ、子どもでもないのだ。

だからせめて、自分の気持を悟られないよう
何重にもラッピングをしてしまい込み、
精一杯の強がりでコーティングしている。

誰の目から見ても反目しあう彼女とオレは、
いつでも、いつまでも、互いにそっぽを向いたままで
向かい合うことなどありえない……はずだった。

今日も仕事の合間に、気づかれないよう視線を送る。
なるべくさり気なく、なるべく密やかに。
昨日と変わらない、いつものオレの習慣だ。
ところが、今日は少し、いや大きく違っていた。
外そうとした視線の端に、
まっすぐに飛び込んできたものがあった。

それは、紛れもない彼女の視線。
ゆっくりと、いっそ恐る恐る、視線を元に戻してみる。
と、彼女とオレの視線がピタリと重なった。
彼女の瞳には、戸惑いと驚きと、
そして、ほのかな喜びが映っていた。
たぶん、オレの瞳にも同じ物が映っているはずで、
彼女はオレから視線を外せなくなっている。
ちょうど今のオレと同じように。

あれっ?
もしかしたらこれ…セオリーってこと?

朗読/西藤東生