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月見ル君想フ 第5話「嘘つき~乃々~」

「乃々、また変な男に付け回されてるんだって? 何で私に言わないのよ」

「あー、うん。いつもきょうちゃんに迷惑かけるのは申し訳ないなって」

「そんなこと! 乃々が怖い思いをするくらいなら、毎日、私が送り迎えするよ?」

「大丈夫だよ。ちゃんと防衛策は考えてあるし、自分でなんとかできるから」

「ホントに? 心配だなぁ」

「きょうちゃんは過保護だね」

「だって、大事な可愛い乃々に何かあったら大変だもの」

「なんかもう、きょうちゃんが私の彼みたい」

「あはは。さすがにモテ要素ゼロの私じゃ、乃々に釣り合わないよ」

「そんなこと…ないのに」

「正直、モテモテな乃々を羨ましいって思ったこともあったけど、モテるのも良し悪しだねぇ」

 

 そう言って笑うきょうちゃんは、自分のことをまったくモテない人だと思っている。それは、嘘なのに。間違いなのに。

 だって、高校生の頃から、きょうちゃんに想いを寄せている男子が何人もいたことを、私は知っている。

 でも、誰もきょうちゃんに告白したりはしなかった。だって、男子がきょうちゃんに寄せていた恋心を、私に向けるように小細工をしていたから。

 10代の男の子の淡い恋心なんて、簡単にひっくり返る。

 ちょっと小首をかしげて笑いかけ、時々、不安そうに瞳を揺らして。さりげなく、その腕に、肩に、そっと触れれば、「好き」な相手はきょうちゃんから私に変わった。

 なぜそんなことをしたのかって?

 だって、きょうちゃんがもし、その中の誰かを好きになって、恋人になったら、私はきょうちゃんの一番でいられなくなるもの。

 誰も、私からきょうちゃんを奪っていかないように、世間で「可愛い」と言われる自分の容姿を最大限に利用して、男たちを排除してきたの。

 

 でも、アイツ…きょうちゃんの幼馴染だけは、私に落ちてきてくれなかった。

 私のアプローチにも、きょうちゃんの想いにも気づかない男。

 きょうちゃんの一番は私じゃなくその男だと知った日、私は悔しくて、悔しくて。目の前が真っ暗になった。なのに、アイツはきょうちゃんに悲しい思いばかりさせている。

 鏡に映る花のように、どんなに望んでも手に入らない。私には触れることさえできないきょうちゃん。

 そんな彼女の心をひとりじめしておいて、恋人になれないなんてほんと、ふざけてる。まして、きょうちゃん以外の人に惹かれるなんて、許せるはず、ないでしょう?

 

 このぶつけようのない怒りも、決して叶うことのない想いも、私を見下ろすあの月に、溶けてしまえばいいのに。