トップ  > Night★Cap Story  > 春だから

春だから

春は別れの季節。

私はずっとそう思っていた。

だから、

あの人が遠くへ行くと聞いた時も、

春なのだから仕方ない、と思った。

あの人を引き留めようとか、

別れに抗おうとか、

そんなことは考えもしなかった。

だって、

春はいつも、別れを連れてくるものだから。

 

「いつ立つの?」

そう聞いた私に、

あの人はまるで、

苦い薬を飲み込んだように顔をしかめる。

「聞きたいことはそれだけ?」

呆れたという感情を隠しもせずに告げられた言葉に、

少したじろぐと、あの人は、

「キミは、僕たちのこれからについて興味がないのかな」

と、ため息まじりに言った。

 

これから、という言葉に私は思わず首を傾げる。

遠くへ行くあの人が、なぜ未来を語ろうとするのか。

私を置いていくあの人が、なぜ傷ついたような顔をするのか。

何ひとつ、私には理解できない。

 

黙ったままの私をじっと見ていたあの人は、

何かを言いかけて、結局、口をつぐんで、

くるりと踵を返した。

 

遠くなっていく背中を見送りながら、

受け入れたはずの別れが胸を刺す。

諦めたはずの想いが、いまさら熱を帯びる。

 

すべてを春のせいにして、臆病者は泣き笑う。