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エンジェルのため息

あなたの頭のずっと、ずーっと上のほう。
ふっかふかの雲に寝そべって
こちらを覗いているエンジェルがおりました。
けれど、何だかとてもつまらなそうです。

頬杖をついて大きなあくびをひとつ。
もうずいぶんと長い間、
エンジェルは恋の矢を手にしていません。
人間たちが恋をしなくなってしまったからです。

「振られるなんてカッコ悪い」
と言っては、「好き」を心に封印し、
「傷つくのが怖い」
と言っては、「好き」の手前で踵を返す。
もっと大切なことがあるからとか、
そんな暇なんてないよだとか、
あれこれと理由を無理やり引っ張り出しては
人間たちは恋から逃げ回ってばかり。
そしてすっかり、恋する気持ちを忘れてしまったのです。

恋をするとドキドキしたり、ワクワクしたり。
毎日がとても楽しくなって、
些細なことがうれしくなって。
だけど時々、胸の奥が疼いたり、キュンと鳴ったり。
甘くて、切なくて、だけどやっぱり甘くて。
こんな幸せな気持ちは、
一流のパティシエが作るスイーツだってくれないはず。

けれど、恋を忘れた人間たちは、
もう永遠に、その幸せを味わうことができないのです。
なんてもったいない。
なんてつまらない。
あくびの代わりに大きなため息がひとつ、
エンジェルからこぼれ落ちます。

そして今日も、恋の矢を射ることもなく、
退屈そうに頬杖をつき、
エンジェルは雲の上から見下ろしています。
いつかまた、地上に恋のつぼみが芽吹くことを待ちながら。
もう一度、恋の矢を放つ日を願いながら。
 


朗読/空閑暉